ニホンカイユーノス

　　　ニホンカイユーノス　牡　芦毛　
　　　北海道沙流郡平取町　赤石牧場産　アラブ血量31.75％
　　　通算成績40戦30勝（30･5･3･2）　獲得賞金8,645万円
　　　父：ビソウエルシド　母：ニホンカイローレル　母の父：イムラッド

★１９９７年ＮＡＲグランプリ　アラブ系４歳最優秀馬
★１９９８年ＮＡＲグランプリ　アラブ系５歳以上最優秀馬

主な勝ち鞍

97年：瀬戸内賞(福山)、日本海特別（益田)、西日本アラブダービー(福山)
98年：播磨賞（姫路）、山陽杯（福山）、開設50周年記念タマツバキ記念（金沢) 摂津盃（園田）、白鷺賞（姫路）、園田金盃（園田）

　「アラブ日本一の最強馬」。これは1998年12月27日、益田競馬場のスタンドに掲げられたニホンカイユーノス引退式を伝える横断幕に書かれたフレーズである。実績をいちいち語らずとも、このフレーズが彼の全てを語っていると私は思う｡ニホンカイユーノス、私にとって特別な存在である彼の思い出を書く事にする。

　ニホンカイユーノスが益田競馬場でデビューしたのは、1996年の7月14日の事であった｡デビュー戦は第１レース、８００m戦で５頭立てであったが、２着でレースを終える｡一週間後の７月２１日に再び出走、ここで見事初勝利を飾ると、翌年４月末までに１６戦して1４勝、デビューからの通算では1８戦１５勝という大活躍。４月にはA級B級混合戦で古馬相手に２戦して共に勝利している。５月に福山に遠征、補助馬限定の「瀬戸内賞」に出走し、ここでも快勝。いよいよ４歳日本一を決定する園田の「楠賞全日本アラブ優駿」へ、益田代表として参戦することになった｡

　私がニホンカイユーノスを知ったのは楠賞当日、５月２８日のスポーツ新聞の園田競馬欄を見てである｡そこに「益田の怪童」としてデカデカと写真が載っていたのが、ニホンカイユーノスだったのである｡当時、益田が「日本一小さい」競馬場だという知識はすでにあったので、もし日本一小さな競馬場から日本一の馬が出れば、これはとても素晴らしいことだと、ニホンカイユーノスが勝ってくれることを祈った｡観戦に行ける身分ではなかったので、結果は翌日の新聞で知るしかなかった｡どきどきしながら新聞を開けてみると優勝はヤングメドウ、しかしニホンカイユーノスも僅差の３着であった。道中、後方を進まなければならなかった不利があり、脚色は出走馬中一番であったと新聞は報じていた｡後で知ったことだが、この時の鞍上だった沖野騎手も「もっと前で競馬していれば」と、とても悔しがっていたと言う｡負けはしたものの、これがニホンカイユーノスの真の実力ではないという思いがふつふつと沸いてきた。今回は負けたが秋には西日本アラブダービーがある。必ずそこで本当の実力を発揮してくれるに違いない、私は秋が待ち遠しくなった｡

　地元益田に戻ったニホンカイユーノスは益田最大のレース「日本海特別」に出走する。ここで、おそらく益田では伝説となっているであろう大勝利をおさめる。持ったまま後続を大差ぶっちぎり、レコードでの優勝。しかも４歳馬の日本海特別優勝は史上初であった。もはや益田には敵がいなかった｡管理調教師も「益田でのレースは調教みたいなもの」と豪語するほどの強さであった｡秋は再び遠征。西日本のアラブナンバーワンを決める「タマツバキ記念山陽杯」。さすがに強豪古馬相手に勝つまでには至らなかったが優勝したアカネリンボーの４着と健闘。そして楽しみにしていた福山・西日本アラブダービーの日がやってきた｡ニホンカイユーノスの前に立ちはだかるのは、六甲盃も制して二冠馬となったヤングメドウ。私としては六甲盃ですばらしいレースを見せてもらったヤングメドウも応援したかったが、何と言っても楠賞を不完全燃焼で終えたニホンカイユーノスが４歳最強であることを証明してほしいという気持ちのほうが強かった｡レースは最高の形で幕を閉じる。ヤングメドウと並んだのもつかの間、あっという間にニホンカイユーノスが突き放して堂々の優勝を飾ったのだ｡残念ながらこのレースも後から結果を知ったのだが、やっぱり一番強いのはニホンカイユーノスだったと、とても満足した気分になれた｡この年、NARグランプリ・アラブ系４歳最優秀馬にニホンカイユーノスが選出されたが、益田所属馬の部門賞獲得はNARグランプリ史上初めてのことであった｡

　１９９８年、５歳を迎えたニホンカイユーノスは益田・大賀繁春厩舎から園田の名門・曽和直榮厩舎に移っていた｡ちなみに後で耳に挟んだ事だが、元々ニホンカイユーノスは福山に移籍するプランもあったのだが諸般の事情で断念。次に白羽の矢が立ったのは当時まだ「アラブのメッカ」の呼び声も高かった兵庫。だが園田の曽和調教師は、すでに西日本アラブダービーや楠賞３着など益田での賞金も含めてかなりの獲得賞金を持つニホンカイユーノスの受け入れに難色を示したそうだ｡それはレースに出走すれば、最初からそれなりの斤量を背負わされる事がわかっていたからである。しかし、最終的にニホンカイユーノスは園田に移籍、曽和調教師の下で新たな競走生活を始める事になった。個人的には園田にニホンカイユーノスが移籍したことを知ったとき、益田のスタッフの手から離れてしまったのが少しだけ残念であった｡だが「これから園田でニホンカイユーノスに会える」と思うとうれしかった｡

　園田に移籍しての緒戦は「新春賞」、正月の名物ハンデ重賞である。いきなり５８キロでの出走となり３着でレースを終える｡その後、姫路・播磨賞で再びヤングメドウを下し兵庫での初重賞制覇をなしとげるも、その後のオープン戦ではなかなか勝たせてもらえない日々が続く｡春の大一番「兵庫大賞典」でも人気になりながら先行集団をとらえられず４着に終わった｡私はこの兵庫大賞典のパドックで初めてニホンカイユーノスと対面。そしてこの時、彼は私にとって「特別な馬」になったのである｡

兵庫大賞典パドック

　ニホンカイユーノスは、とてものんびりとパドックを周回していた｡途中で立ち止まってしまうくらいのんびりとしたものだった。しかし不思議な貫禄がにじみ出ていて、「これが益田の怪童か！」と私の胸は熱くなっていた｡同じく出走していたヤングメドウものんびりと周回していたが、全く雰囲気が違うのである｡言葉では言い表せない感覚が、その後彼と対面する度に私を包むのである。私にとってニホンカイユーノスは他の馬とは何かが違っていた｡その馬が本当に好きな人は何時間でも見ていて飽きないものだと聞いた事があるが、ニホンカイユーノスと出会ってみてその事がなんとなく理解できる気がした｡何周でも目の前を通り続けてほしい、そう思わせてくれる馬であった｡兵庫大賞典は負けてしまったが連を外したのはこれが最後で、この後の活躍ぶりはまさしく「日本一の名馬」にふさわしいものであった。

　福山の山陽杯を快勝すると、金沢で行われたタマツバキ記念でも完勝。あっという間に西日本古馬ナンバーワンの座につく｡園田で特別を６０キロを背負って勝つと、夏のハンデ重賞「摂津盃」では６２キロを背負い、エイランボーイと接戦の末ハナ差で１着。定量の山陽杯（園田）ではエイランボーイに僅差で敗れるものの、姫路・白鷺賞では６３キロで後続をぶっちぎる大楽勝。そして、暮れの大一番「園田金盃」でケイエスヨシゼン（三冠馬）、エイランボーイ（前年の園田金盃馬）、ノースタイガー（兵庫大賞典）といった兵庫を代表する馬を一蹴。そのレースぶりはまるで、一頭一頭を叩き潰すかのような迫力があった｡そして５歳という若さながら引退、種牡馬入りが決定したのである｡

　引退式が１２月２４日に園田で、１２月２７日に益田でそれぞれ行われた｡私はラストランとなった園田金盃が都合でレースを見に行けず、レースの映像は後日CS放送で、結果は翌日の新聞で知ったのだが、来年も走るだろうからまた次の機会にでも見に行けばいいやと思っていただけに、新聞に書かれた引退の２文字には大きなショックを受け、しばらくそこから目が離せなくなった｡何度も何度も読み直し「しまった」という思いにとらわれた｡これは何が何でも引退式には行かねばと決心し、引退式の日程が新聞に載っていなかったがため益田市競馬事務局に問い合わせて引退式の日を確認し、すぐに切符の手配にかかった｡

もう十分、帰る。
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ありがとう、ニホンカイユーノス